さよならレストインピース

だいたいジャニーズWESTのこと

徒然なるままに舞台MORSE観劇メモ

※以下、ネタバレしてます。ご注意ください。

 

 

 

東京グローブ座は私の好きな劇場のひとつです。まるでおとぎ話に出てくるようなこぢんまりとした可愛い劇場。そこで小瀧望くんの主演舞台「MORSE」が行われていました。

私は数回グローブ座にお邪魔しましたが、初回観劇時は原作も映画もネタバレも見ずに、単身乗り込みました。事前知識も、先入観もなく、彼が一生懸命こちらへ届けようとしてくれるものを、形を変えずそのまま受け取りたかった。

そこで見て、感じて、疑問に思ったことと、自己解釈を勝手に綴ろうと思います。

 

※原作を読んでおりません。的はずれな意見もあるかと思いますが、個人的な感想ですのでスルーしていただければ幸いです。

 

 

 

 

・冒頭のシーンについて

初めて観たときは度肝を抜かれた冒頭。家庭からも学校からも友人からも隔絶された少年が、その身を守るものすら何も纏わず、救いを求めてひっそりと「SOS」のモールス信号を送る。というシーン。

けれど、助けて欲しいと訴えているにもかかわらず、こちらに(外に)投げかける言葉は「何見てんだよ、豚、豚、豚野郎。」

その後、自分を呼ぶ母親の声にも答えることなく、耳を塞ぎます。

そこから出して欲しいのか、それとも敵のいないそのガラスの箱の中に閉じこもっていたいのか。開始直後1分間ほどのこのシーンで、あらゆる選択肢に苦悩している、そしてこれからさらに苦悩することになるオスカーを描いているんだなぁと解釈しました。一気に物語に引き込まれる圧巻のオープニングです。

 

 

・オスカーの純粋さ

オスカーはひたすらに純粋です。普通だったら疑問に持つ事柄に対して、何の疑問も持たずに納得して受け入れてしまう。

「寒くないの?」「寒いってどんな感じか忘れたんだと思う。」「ふーん。」

「私が女の子じゃなくても好きでいてくれる?」「うん、好きなんじゃないかな。」

「子供でも大人でも、男でも女でもない、何者でもない。」「そっか。」

この会話だけ見ると、オスカーはちょっとお馬鹿なんじゃないかと思うほど、全部納得しちゃいます。でもそれはエリに関することだけ。

母親に対して、「ママは正しいことを教えてくれない」とはっきり言い放ちます。母親の言うことは正しくないと理解している。彼にとって何が正しいのか、何が間違っているのか、ちゃんと彼の中に線引きがあるようです。エリの言うことは「正」で、ママの言うことは「誤」、なのかな。そう思うと、このお話の邦題「LET THE RIGHT ONE IN」にもつながってくる。「正しいものを迎え入れる」。「入っていいよ」とエリを迎え入れるオスカー。だって、エリは「正しいもの」だから。

 

 

・「バイバイ」

オスカーにとって「バイバイ」という挨拶は特別なのかなぁと思わずにいられません。エリに言われた「バイバイ」も、噛み締めるように受け止め、そして嬉しそうに「バイバイ」と返す。ミッケと二人で話したあとも、「バイバイ」と言われて、嬉しそうに「バイバイ」と呟く。「バイバイ」は別れの言葉だけれど、「また明日」のニュアンスが含まれているから嬉しいのかな?友達の証みたいなものだと思っているのかなあと勝手に思っています。

 

 

・オスカーは匂いに敏感?

オスカーはやたらと匂いの表現が細かいです。「昔飼ってた犬のブルーノの毛が濡れたときみたいな匂い」「怪我して巻いた包帯が膿でぐっちゃぐちゃになったみたいな匂い」。12歳の少年にしては表現が豊か。「なんかくさい!」でいいだろうに。そしてオスカーはよく匂いを嗅ぎます。お菓子もくんくん。ママが出してくれた料理もくんくん。ラストシーンの服を着せてもらったあとも、その服をくんくん。ネットで調べた情報に過ぎませんが、匂いに敏感な人というのは情動感受性が高く、ストレスを感じやすいらしいです。感受性が豊かで、薄いガラスのように脆く儚いオスカーを思うと、納得してしまいました。

ところで、あの服は誰のものなんでしょうか。ホーカンのかと思ったりしたけれど、オスカーとホーカンはほとんど交わらないので、匂いを嗅いで何かを感じるというあの演技はしっくりこない。ただ単に、男の人の匂いがしたから「ん?」って顔をしてるだけなのかなぁ。

 

 

 

・母親とのラストシーン

母親との最後の会話をするシーン。いろんな意味が含まれていそうで、それが何なのかイマイチ見えてこない難しいシーンです。(私の理解力がないだけですが…)

このシーンを通して、オスカーが大人になろうとしてることを示唆しているのかなぁと思ったりもしました。オスカーはここで、母親にいくつかの質問をします。「パパとママはどこで出会ったの?」「初めてキスした場所は?」、それに対し母親は何だか恥ずかしそうに笑いながら答えます。ところが次の質問「上手くいかないかもと思ったのはいつ?」これに対して母親の顔色は急激に曇ります。手も震えだし、ただならぬ空気。そして一言「覚えてないよ。オスカー。」

オスカーはすぐに自分の質問がよくなかったと察します。なので話題を変える。12歳の少年が母親の精神的な異変に即座に気づき、気を逸らそうとします。

その後、母親から「パパと住むのかママと住むのか、好きな方を選べばいい」と言われ、「どちらとも住まないよ。」と答えます。繰り返しますが、12歳の少年です。どちらとも住まないという選択肢はないと母親から一蹴されますが、オスカーの目には迷いはない。完全に母親との決別を覚悟しているように見えます。

オスカーは「あんたの好物」だと言われて差し出された料理を食べません。テーブルに置かれた料理を見て、すぐに怪訝な顔をするのです。恐らくですが、その料理はオスカーの好物ではない。アルコール中毒で、精神的にも不安定な母親はもう彼の好物も覚えてないのでしょう。だけどオスカーは「これ僕の好物じゃないよ」とは言いません。「これ僕の好物だったっけ。もうよく覚えてないや。」母親が忘れたのではなく、自分が忘れたのだと言うのです。母親を否定するようなことは言いませんでした。

ちなみにこのシーンの前の母親との二人のシーンでは、オスカーは母親に「クソ女」と吐き捨てています。でもきっとあれは本心じゃない。本当はオスカーも母親を傷つけるようなことは言いたくないはずです。だから最後は、傷つけるようなことは言わなかった。

いつのまにか寝てしまった母親に気づき、オスカーはそっと毛布をかけ、手を握り、頭を撫でます。自分がされたことを同じように母親にしているんです。大人と同じことをするオスカー。大人になりたい、母親という檻から抜け出して自由になりたい。

このシーンでは終始、時計の秒針の音が鳴っています。「時間が進んでいる」という描写が色濃くされている。時間が進むにつれ、オスカーがどんどん大人になっていく。そんな意味で捉えました。何となく物悲しく、心臓をえぐられるシーンです。個人的にとても好きなシーンでもあります。

 

 

・なぜミッケにナイフを渡したのか

オスカーはなぜミッケにナイフを渡してしまったんでしょう。元は親友だったとはいえ、今はヨンニとともに自分をいじめてくる存在なのに。ナイフを渡してしまうシーンの直前、エリとの別れのシーンがあります。母親との別れ、エリとの別れを経て、もう何も残っていないオスカーのところへミッケがやってきます。ミッケは本当はオスカーと仲良しに戻りたい。だから、ここで親しく話すことにミッケ自身も何の企みもなく、純粋な気持ちだったと思います。オスカーもついつい嬉しくなっちゃったんでしょう。それまで、自分を守るために肌身離さず持っていたナイフをミッケに渡してしまいます。「もうこれは必要ない」という意思で、親友に手渡したのかなぁと思います。トレーニングに何故出てこないのかというミッケの問いに、「自分はもう、充分鍛えられたのであります!」と答えるところを見ても、もう自分は今までとは違う、強くなったと自負していたんでしょう。だけど、結局そのナイフはオスカー自身に向けられることになる。母親も、エリも失ったあとに、とどめのように親友からも裏切られる。何故ここまでオスカーは苦しめられないといけないのか、と、プールのシーンでは見てるこちらが息ができなくなるほど、くるしくてくるしくて、悲しかったです。

 

 

・「良い旅を」

家も、学校での居場所も失い、自分に唯一優しくしてくれていたお菓子やさんという居場所も自ら失ったオスカー。ホーカンという生きる術を失ったエリ。何もかもを失くした二人が電車で旅に出る。そこへ車掌さんが一言「良い旅を。」

二人の旅の行く末が如何なるものなのか、私にはわかりません。ハッピーエンドなのか、バッドエンドなのか、誰にもわかりません。だけど、二人がずっとずっと二人で静かにモールス信号を送り合い、慈しみ合い、笑い合うことを願わずにはいられない。

二人の未来へ向けるはなむけの言葉「良い旅を。」

それに笑顔で答えるオスカーの「ありがとうございます。」

最高の、最後の台詞だと思います。

眩しい光の先を、真っ直ぐに見据えるオスカーの瞳。このラストシーン、涙が溢れてもうどうしようもない。どうか、どうか、これからの二人に幸多からんことを。

 

 

 

 

・「ぼくのともだちになってくれない?」

この舞台の制作が発表され、公式サイトが出来たときから、そこにポツンと書かれていた言葉「ぼくのともだちになってくれない?」

この台詞、実際の舞台では一度も出てきません。それどころか、エリとの出会いのシーンでは「あなたとは友達になれない」「僕が君と友達になりたがってると思ったの?バカだね」なんて会話が行われます。真逆じゃないか。どういうことだ。

うん、きっと、あれはオスカーの本心なんだろう。きっとオスカーはエリと出会ったときから、そう思ってたんだろう。

オスカーは、決してエリ本人にも言わなかった本心を、誰よりも先にわたしたちに聞かせてくれたんだなぁ。そう思うと、オスカーが愛しくて愛しくて、たまらなくなるのです。

 

 

 

東京グローブ座での公演は本日12月6日で千秋楽を迎えました。本当に本当に、あの会場だからこそ、あのMORSEという世界は生まれたんだと思う。

大阪でもきっと、また違う素敵な世界を生み出してくれると思います。ひとまず、東京公演、本当にお疲れ様でした。

さようなら、グローブ座のオスカー。大好きでした。

シアターBRAVA!のオスカーもきっと大好き。早く会いたいです。